2012年3月24日土曜日

あの雑誌を読もう!

一昔前まで多摩動物公園から発行(※)されていた、「インセクタリゥム」という雑誌がある。

 この雑誌を知ったのは中学生だか高校生だかの頃、図書館で松浦誠「社会性ハチの不思議な社会」を読んだのがきっかけだ。
 調べてみたら、どうやら著名な研究者の方々が執筆しているらしいということも分かったけど、当時すでに廃刊しちゃってて、しかもバックナンバーは地方の図書館にはおいてなかった。
さすがに古雑誌読みに東京まで行けるわけがない。がっかりして、そのまま忘れてしまった。

 その後、僕は大学に進学し、色々あってコハナバチと出会い、研究材料として付き合っているうちに大学院まで来てしまい、まあ・・・ハチ研究者の末席を汚す身になってしまったが、「インセクタリゥム」のことは大学入学以来、ずっと忘れたままだった。大事な研究は国際誌にあって、日本語の雑誌には大したことは書いてない、と思い込んでいたのだ。

 で。

 つい最近、奇しくも「社会性ハチの不思議な社会」(絶版だった)の古本をAmazonで発見たことがきっかけで、僕は再び「インセクタリゥム」のことを思い出した。

「そういや、うちの大学も旧帝大だもんな、バックナンバーの一部くらいあるかな」

と思って図書館で検索してみたら、

 全部あったよ。しかも俺がずっと在籍してる学部の図書室に。
 
こりゃもう行くしかない。
雑誌自体はすぐに見つかったので、とにかく僕はハチ関係、アリ関係、社会性昆虫関係の記事を片っ端から漁ってみることにしたのだが、そしたら新しい方から4年分も探さないうちに、出るわ出るわ、ビッグネームが。
 
 坂上昭一。松浦誠。岩田久仁雄。山根爽一。山根正気。伊藤嘉昭。うわあああ日本の社会性昆虫研究のパイオニアばっかりじゃん!!在野の研究者でも有賀文章も書いてる!!うおおうおう、ラガベンドラ・ガダカールまで寄稿してんのかよおおお(以上、敬称略)。あ!ていうか今、うちの研究室に縁のある人も寄稿してるじゃん・・・。

 エッセイばかりかと思いきや、きちんと理論体系の概要を説明する原稿もあり、基礎的な、本当に基礎的な、でも研究する上では必要不可欠な生活史の記載もあり、おまけに各研究者によるハチやらアリやらの飼育ガイドまで載ってる!これで月刊330円は安い、安いぞ!!

 これから社会性昆虫がらみのことを割とディープに知っていきたい人は、赤青コンビの「社会性昆虫の進化~学」はもちろん、「インセクタリゥム」を読むといい。日本人が行なった先行研究を手早く知っておくにはかなり使える(まあ図書館に行って、バックナンバーを探したりコピーする手間を確保できるかどうかがネックだけど・・・)。
 少なくとも、英語論文をわざわざ苦労して読むより、はるかに労力は少なくて済む。もっと探せばまだお宝が眠っている気がして、目下、平日は一日一時間、図書室へ足を運ぶのが日課になっていたりするのです。


2012年3月18日日曜日

PAMILO論文メモ

PEKKA PAMILOが1991年にAmerican Naturalistで発表した、2本の論文に関するメモ。

 1本目 SEX ALLOCATION


  • 前半はWorker Reproductionと個体群性比の数値についての理論予測。後半はWorkerと次世代QueenとMaleのうち、どれに資源を振り分ければよいかに関する理論予測。後半は今やってる話とはあまりかかわりがないので省略。
  • Sex Allocationがどのようになるかという理論予測について。PAMILOはワーカーが女王の居る状態でオス生産をしてる場合とか、Orphanedの巣でワーカーがオス生産をする場合とか、ワーカーが交尾している場合とかを数式で解いて、Table1に予測値を入れている。が、ここで示されているのは女王が単回交尾の場合を想定しており、複数回交尾の場合については自分で計算しなきゃならんみたい。まあそんなに難しいもんでもなさそうだけど。
  • あとSex Ratio Compensationについて。PAMILOは、「Orphanedワーカーがオス生産をすることで個体群性比がオスにバイアスするとき、メス生産を行なうコロニーが理論値よりもメスを多く生産すること」のように書いている。この状況だけをSRCと呼ぶのかどうか、Taylor(1981)での定義を確認した方がよさそうだ。


 2本目 NUMBER OF REPRODUCTIVE INDIVIDUALS


  • 多回交尾や多女王制、ワーカー繁殖などが、どういう状況のときに個体群内に侵入してくるかの理論予測ではあるのだけど、やっぱり今の話とは関係性がうすいな・・・。




 間違ってるとことかあればご指摘ください。

2011年4月20日水曜日

【論文】【Allodapine Bee】メモ1

PEKKA PAMILOが1991年にAmerican Naturalistで発表した、2本の論文に関するメモ。

 1本目 SEX ALLOCATION


  • 前半はWorker Reproductionと個体群性比の数値についての理論予測。後半はWorkerと次世代QueenとMaleのうち、どれに資源を振り分ければよいかに関する理論予測。後半は今やってる話とはあまりかかわりがないので省略。
  • Sex Allocationがどのようになるかという理論予測について。PAMILOはワーカーが女王の居る状態でオス生産をしてる場合とか、Orphanedの巣でワーカーがオス生産をする場合とか、ワーカーが交尾している場合とかを数式で解いて、Table1に予測値を入れている。が、ここで示されているのは女王が単回交尾の場合を想定しており、複数回交尾の場合については自分で計算しなきゃならんみたい。まあそんなに難しいもんでもなさそうだけど。
  • あとSex Ratio Compensationについて。PAMILOは、「Orphanedワーカーがオス生産をすることで個体群性比がオスにバイアスするとき、メス生産を行なうコロニーが理論値よりもメスを多く生産すること」のように書いている。この状況だけをSRCと呼ぶのかどうか、Taylor(1981)での定義を確認した方がよさそうだ。


 2本目 NUMBER OF REPRODUCTIVE INDIVIDUALS


  • 多回交尾や多女王制、ワーカー繁殖などが、どういう状況のときに個体群内に侵入してくるかの理論予測ではあるのだけど、やっぱり今の話とは関係性がうすいな・・・。




 間違ってるとことかあればご指摘ください。

2011年4月17日日曜日

【論文】【Allodapine Bee】その1

さて忘れた頃になって更新。
 なんだかんだで博士課程に来てしまった。

 博士に来て一発目の更新ということで、自分の論文でも紹介しようかと思ってたのだが、丁度今、研究室のゼミで話すための論文を読んでいるところなので、その概要と感想でもここにのっけていこうと思います。ブログならあとで参照しやすいし、という横着さもあったりする。
 まあ間違いとかはあると思うので、そこらへんは追々修正したい。

 その一本目がこれ。

Schwalz, M. P., Tierney, S. M., Rehan, S. M., Chenoweth, L. B., Cooper, S. J. B. 2011 The evolution of eusociality in allodapine bees: workers began by waiting. Biol. Lett. 7, 277-280.

 Allodapine Bee というのは、オーストラリアやアフリカなどに生息しているハナバチの仲間で、日本には生息していない。近縁種にCarpenter Bee がいて、こちらは日本にも生息していてツヤハナバチと呼ばれている。
 木の中に一本の坑道を掘り、そのまま巣として利用する。ここらへん、ツヤハナバチの仲間に似ている(こちらは草の茎の中に巣を作る)。チューブを使って飼えるらしい。

 こういう巣が未発達なハチは、社会性そのものも原始的なことが多く、同じ属でも単独性のものから一応集団を形成するもの、きちんと不妊のワーカーまで存在するものまで幅広くいるので、社会性の進化の研究材料としてよく使われる。

 著者らによると、Allodapine Beeの羽化したメスは、巣を離れる場合と残る場合があるが、残る場合には大きく分けて次のような3通りの行動をとるという。

  1. 社会的制約(※Introからの引用の直訳だが、たぶん順位制や労働分業のことだろう)なしに産卵を始める
  2. しばらく巣内で内勤(巣の補修など)したのち、産卵・採餌活動に従事する
  3. 自分で産卵を行なわず、採餌活動のような労働に従事する。不妊。


 著者らの研究は、Allodapine Bee 16種について、DNA(ミトコンドリアのCOIなどを使っている)の配列から系統樹を描き、系統樹の各分岐にあった祖先が、「それぞれどのくらいの尤度で上記三つの行動をとっていたのか」を推定することだった。

 結果、真社会性種の共通祖先は(2)の行動をとっていた可能性(尤度)が最も高いという結論が導き出された。著者らはAllodapine Beeにおける真社会性(3)は、(2)の形質から進化したと考えており、その要因として「真社会性の2種が生息する地域では蜜源植物の開花時期が限られていること」を挙げている。

 つまり、自分で直接産卵を行なうことができなくなったため、自分で繁殖を行い直接適応度を得る戦略から、血縁者(弟妹)を育てることにより間接適応度を得る戦略にシフトしたということらしい。



 さて、これを読んでの自分なりの解釈や、思ったことなどをつらつらと。

 まず、(1)(2)(3)の戦略について。著者らはそれぞれ"Reproductive" "Waiting" "Foraging" と分類している。
 (1)は二世代の成虫が同じ巣を共用している状態で、分業は特に見当たらないのが特徴だ。協同といえるかどうか、この論文だけではよく分からない。
 (2)は繁殖の遅延により、ある種の分業が生じているのが面白い。最初、ただ巣に留まることにメリットはあるのかという疑問がわいたが、この巣に居残るハチは巣の防衛などを担っているのだろう。血縁者の巣に居る以上、間接適応度はこれにより確保できる。
 (3)蜜源植物の開花期間の短縮により、真社会性へシフトせざるを得なくなった(自分で卵を産んでも間に合わない)という解釈が面白い。とすれば、Foragingする不妊個体(ワーカー)は、母親による制約(ミツバチのように卵巣発達を抑制されているなど)を受けずに、自力繁殖を放棄したということになる。まあ、性比調節くらいはしていそうだが・・・。

 Allodapine Beeについては、今までほとんどノーマークだったので、これを機に少し論文を漁ってみようと思う。給餌様式とか、生活環とかが気になる。またこの論文、付録があるので、これについても確認する予定。

 それと、系統解析から祖先の形質を推定するという手法が結構新鮮。ベイズ法という複雑怪奇なやつで、あんまし踏み込みたくない話ではあるのだけど、そうも言ってられないだろうねえ。コハナバチは系統関係がかなりはっきりしてきてるし、それぞれの社会性も徐々に明らかになりつつある・・・ので、そのうち同じような研究が行なわれるかもしれない。

(余談)

 ところで、ウチの大学はBiology lettersを購読しているはずなので、いつもどおり普通に読めると思ったんだけど、この論文は有料となっていて17ポンドほど請求された。まあ2000円くらいしょうがないってことで払ったんだけど、なんで?他の記事はそういうことなかったのが多かったけど、一部に同じように請求が来る論文があった。雑誌の規定 を確認したほうがいいかも(※)。

2010年10月7日木曜日

コハナバチ巣の掘り出し

わあ、気がついたら2ヶ月近くも放置。 久々の更新は「コハナバチの巣掘り」の話。

 前回紹介したマーキングから数週間経って、ぼつぼつ幼虫が蛹になるころかなあ、という時期になったので、道具を準備して出かけることに・・・と書きたいところなんだけど、実際には北海道らしからぬ猛暑と雨で、採集時期をかなり前倒しにし、押っ取り刀で駆けつけたというのが正しい。

 で、コハナバチは粘土質の土壌に営巣するわけなんですが、雨が多かったせいで地面はぐちょぐちょ。こんなところに這いつくばるのか!ということで、レジャーシートを敷いて小雨が降るなか採集開始。


 まず、こんな風に巣穴の入り口に目印を突っ込んでおくことから始めます。成虫が逃げ出さないようにする簡易蓋と、巣穴の位置を確認するマーカーという役割。
コシがあって柔らかければ何でもいいんですが、そこら辺の草の茎とかで十分ですね。一番いいのは柳の若枝。今回は マツの枯葉を使用。
次に巣穴から10センチほど離して深さ30センチほどの縦穴を掘り、そこからよく研いだバターナイフなどを使って掘り進めて行きます。
今回は予想以上に(っつか予想通りだったんだけど、事務的な問題で採集日程が後ろにずれ込んだ)蛹の成長が早く、時間との戦いだったので写真がありません。


 しばらく掘っていくと、こんな感じで巣が出てきます。・・・とだけ言っても分かるわけないでしょうから、次の画像をご覧ください。



 ・・・と、いうような感じになっています。坑道が育房塊(いくぼうかい)に隣接しているのが特徴です。シオカワコハナバチの育房は周囲の土に埋まっているような形になっており、探り当てるのが結構困難です。しかも雨が降って土がくっつきやすい状況のため、よけいに難渋しました。
 ホクダイコハナバチだと、育房と周囲の土の間に空隙があるので、シオカワよりはもう少し分かりやすいかも。この種は、巣にもよると思いますが、育房塊がある空間と坑道の間が離れている気がします。

 さて、最後は調査中に見つけた阿鼻叫喚図。


 南方系のアリ、トビイロシワアリ Tetramorium tsushimae による襲撃現場。引きずり出されているのはメスの蛹ですね。

 このアリ、よくコハナバチにちょっかいかけるんですよ・・・。広範囲に斥候(スカウト)を派遣し、カモがいると見るや短時間で大量のワーカーを繰り出すため、気づかれたらほぼアウトです。聞くところではチドリのヒナを襲って殺すこともあるそうで。レギオンですな。

 いつもどおりに採集に行ったら、その日一番に掘る予定だった巣がこんなことになっていて、絶句した覚えがありますが、写真を撮った覚えはありませんでした。割と使えそうな写真で、ナイス俺。

2010年7月26日月曜日

マーキング(その弐)


以前のエントリ「マーキング」では「今年はやらない」と書いてたんですが、結構数が確保できそうなのと、道具でいいのが手に入ったので、やっぱりやることにしましたマーキング。まあ巣内個体カウントの手助け程度の意味しかないんですけどね。

で、今回はうまくいったマーキングのしかたと、マークした個体の巣への戻し方について。


上はすでにマーキングが終了した段階で撮っています(まあマーキング前に撮影なんて悠長なことはやってられないわけで・・・)。
CO2で麻酔した(というか、酸欠でふらふらになっている)コハナバチは真ん中の足をつまむようにして持ちます。こうすると腹が爪に当たるので刺されません。

マーキングで使っているのは、ラッカー系の顔料を使っている三菱の「ペイントマーカー」。昆虫にナンバリングやマーキングをするときには大抵これを使います。ただ、コハナバチにマークするにはちょっと太すぎ、インクが出すぎなきらいがあります。なので、親指で確認をしてから使用します。爪に水玉模様がついているのはそのせいです。


こちらは少しインクが広がっていますが、翅に干渉してないのでセーフ。これから巣穴の中に戻します。


 そのままほっといても、大抵はいったん飛び立ってからまた戻ってきますが、酸欠で朦朧とした状態で天敵に捕まってはたまらないし、門番がいない巣がアリに襲われるかもしれないので、ラッカーが乾き次第、すぐに巣に戻します(生乾きだとマークが薄くなったり、巣仲間にどやされたりする)。

 論文を読むと「アスピレーター(吸虫管)で巣に戻す」などと書いてあるんですが、うまくいった試しがないので自己流で。まず、先の細い精密ピンセットで昏倒しているハチをつまみ、巣の入り口に頭から突っ込ませます。
目が覚めてからこれをやると足で踏ん張って外に出てしまうので、意識不明のうちにすばやく。軽くCO2処理しなおすこともあります。


 頭が入ったら、そっとピンセットでお尻をつつきます。ゆっくり繰り返すと、半分覚醒したハチが、寝ぼけ眼で入っていきます。上の写真くらいになれば十分で、侵入者は突き出たお尻でシャットアウトされます。
 このやり方は、ピンセットで麻酔したハチを巣に戻そうと悪戦苦闘していたところ、帰ってきた別のハチが気絶しているハチの尻をつついて起こし、中に入らせたのを見たことで思いついたものです。
 念を入れる場合は、上から軽く土を降りかけておくのも有効。翌日にはほぼ確実に、元気に巣外活動や門番をしています。

 コハナバチの巣には夏でも2~3頭程度しか成虫がいないので、マーキングの形状や色で個体識別も可能です。 名前をつければ愛着もわくのではないでしょうか。わき過ぎると解剖がしにくいので、自分はつけませんが。


 最後におまけを。これは雨の前などで巣口に土で栓をした状態の巣です。右側に猛スピードで走る何かがいますが、何でしょうか?標準和名まで当てた方には恐れ入ります。

20100612支笏湖付近にて

支笏湖近くに、細いが強い流れの川があり、オショロコマが棲んでいる。

 この川の源流域は沢登りの初心者ルートとして知られており、・・・まあ普通の釣り人には遡行が面倒くさくなっている。よっぽどオショロコマが釣りたい酔狂でないと入らないので、まあプレッシャーは低いだろうと予想して釣行計画を立てたという次第。

 入るのは3回目。最初は寝坊して半分のルートを往復(この辺の顛末はマンガのネタにしてみた)。2回目は今年の春、雪解けの増水で手が出せず。


 こんな感じの箱沢が続く。上の写真は割と下流部にある釜。こういった大場所ではあまり釣れない。小さなポイントを丁寧に攻めてようやくヒットする感じ。


 全体的に大きさは15センチ程度。オショロコマならまあ平均サイズと言える。針掛りしたらさっさと釣り上げ、水中で針を外し、2分以内に撮影してリリース。


  この日の最終ポイント。このゴルジュの先にもまだまだ沢は続いている。奥に見える滝が魚止めかどうかを確認したかったが、足を痛めてしまっており、ちょっと高まきが難しめだったことから今回はこれで撤退とした。

 全体を通して、好条件にもかかわらず魚影が薄い感じがした。沢登りのルートともなっているため、採集圧は低くないのだろう(命の教育、とかいって食べる家族連れもいるようだし・・・)。そっとしとくに越したことはない。